大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和54年(ラ)1261号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

1 記録によれば、相手方(債権者)は、抗告人ら(債務者ら)との間の甲府地方裁判所昭和五三年(ヨ)第七二号有線放送設備撤去等仮処分事件において、同裁判所が昭和五三年五月八日にした仮処分決定に基づき同年同月二六日にした仮処分執行の執行費用として、(一)執行官費用六万五八四〇円、(二)有線音楽放送設備撤去工事費用九一万八八六七円、合計九八万四七〇七円を要したことが一応認められる。

2 そこで、抗告理由につき順次検討する。

(一) 抗告人らは、まず、抗告人らが本件仮処分前日までに有線音楽放送設備を自主撤去した電柱数は、執行対象電柱二三一本中一三〇本に及び、その割合からすれば、総撤去工事費は56.7パーセント減額されるべきであると主張する。

しかし、右自主撤去にかかる電柱数が一三〇本に及ぶという疎明はない。もつとも、本件仮処分の各執行調書に記載されている撤去物件中三号Cバンド及び引留バンドは合計一〇一個であることが認められるが、そうであるからといつて、執行対象電柱二三一本から執行当時右バンドが取りつけられていたと考えられる一〇一本を差し引いた一三〇本(これが抗告人ら主張の数字の算出根拠と思われる。)が、抗告人らによつて自主撤去されたものであるとの疎明とするには足りない。蓋し、記録によれば、本件において、抗告人らが電柱に添架したすべての有線音楽放送線が必ずしも右バンドによつてのみ固定されていたわけではなく、電柱の足場ボルトに添架したり、また電柱に鉄線をまきつけてこれに添架したりする方法もとられていたことが認められるからである。そして、また、抗告人ら提出にかかる抗告人株式会社日本ゆうせん甲府出張所長原宗久作成名義の報告書によつてみても、抗告人らが自主撤去したという電柱本数(一三一本とある。)のみを示して、その電柱を特定することはできないとしており、他にその本数の根拠を示すものは何も挙げていない。加うるに自主撤去の主張は、原審では全くなされず、当審に至つて初めてあらわれた主張であることの不自然さをあわせ考えると、抗告人らによる他の立証をまつまでもなく、抗告理由第一の(一)の主張は採るを得ない。

(二) 抗告人らは、次に、本件仮処分執行については、これに関与した執行官及び執行補助者とも過剰であゆ、また、故意に非能率的な作業方法をとりいれたり、不必要な車輛が用いられるなど、その費用の見積りと執行に従事した関東電気工事株式会社が、相手方の専属的下請企業であることとあいまつて、一般常識を超えた人件費等の執行費用を請求していると論難する。

記録によれば、本件仮処分執行は、昭和五三年五月二六日に、各班それぞれ執行官一名、執行補助者二二名から成るA班とB班との二班にわかれてなされたものであるが、A班は、同日午前七時から午後三時四〇分までにわたり、甲府市丸ノ内、朝日、北口、愛宕町、中央、若松町、及び中巨摩郡竜王町、白根町に所在する電柱一一七本につき、B班は同日午前七時から午後二時一五分までにわたり、甲府市若松町、太田町、相生、幸町、住吉、伊勢、高畑、及び北巨摩郡双葉町に所在する電柱一一四本につき、電柱に添架された放送線(ケーブル)、電柱等に固定された自在バンド、引留金具、引通し金具、ボルト、鉄線、及び支線、引込線、分岐金具類等一切の有線放送設備を撤去したもので、右は、執行官において、事前に、債権者(相手方)、債務者ら(抗告人ら)の意向をくみ入れ、対象電柱の分布地域、本数、架設態様、交通状況等を勘案して、執行の分担区域、順路、手段(高所作業車輛一台を含む。)、撤去方法等を定め、交通上の安全を確保しながら、能率的で、かつ債務者ら(抗告人ら)にとつても損害の少い放送線(ケーブル)切断方法を採用して実施されたものであり、その所要人員、手段及び方法において相当であつたことが疎明される。抗告人ら提出の資料中には、本件仮処分執行のための作業員らしき者が、立話しや傍観しているところが撮影されている写真があるが、これをもつて直ちに、本件仮処分執行の全過程における執行補助者の怠慢や過剰を疎明するには足りないというべく、また、本件仮処分執行にあたつてとられた放送線(ケーブル)切断方法は、前記のとおりの考慮と経緯のもとで採用されたのであるから、相手側において、故意に非能率的な方法をとつたものとたやすく論断することはできない。

ところで、記録によれば、相手方が前記の如く有線放送設備撤去費用として九一万八八六七円を計上した内訳は、(1)ケーブル撤去費五八万一五八〇円(七一八〇メートル、一メートルあたり八一円)、(2)装柱撤表費一三万八六〇〇円(二三一基、一基あたり四五四〇円)、(4)共通費七万二九二六円、(3)安全対策費二万九一七〇円、(6)諸経費八万七五一一円であつて、右は関東電気工事株式会社作成にかかる請求書及び領収書に基づいて算出したものであること、その算出根拠は、同社等によつて策定されている工事量を基準にした通常の工事請負代金見積方法に準拠したものであることが疎明されるところ、前記本件仮処分執行の経緯、態様とも考えあわせれば、かりに同社が相手方の専属的下請企業であるとしても、そのことを以て、他に特段の事情のうかがわれない本件において、右請求額が一般常識を超えた過大な費用であるとみることはできない。抗告人らが、右(1)の費用につき、一メートルあたり二〇円前後で足りるとして提出した疎明資料には、その根拠を示す何らの指標も挙げられておらず、抗告人らの説明も付されていないので、未だ相手方の疎明を動かすに足りず、他にそのような資料はない。

してみれば、抗告人らの抗告理由第一の(二)ないし(四)及び第二は、いずれも排斥を免れない。

(三) 抗告人らは、更に、本件仮処分執行は、仮処分の緊急性及び必要性がないのに敢てなされたものであつて、相手方は、仮処分制度を乱用しているのであるから、その執行費用を抗告人らに求めることは許されないと主張する。

しかしながら、仮処分の緊急性及び必要性の有無は、仮処分の決定手続中において争うべきであり、すでに仮処分の決定がなされ、これに基づいて仮処分執行がなされた場合には、債務者ら(本件では抗告人ら)は、もはや仮処分の緊急性及び必要性の欠如を理由として、仮処分執行費用の支払いを免れることはできないものといわなければならない。それゆえ、抗告人らの右主張もまた採用することはできない。

(宮崎富哉 高野耕一 石井健吾)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!